ある県の動物管理センターの所長は、「たとえ地域猫制度のある市の住民から、駆除目的で耳カットされた猫が持ち込まれたとしても引き取って殺処分する」と断言した。「地域猫は地域住民の合意を前提にするものだから、猫を迷惑に思う市民がいること自体が、その地域できちんと地域猫の取り組みができていない証拠だ」という。それはおかしいと抗議したが、一切、聞く耳を持たなかった。

ある市の地域猫制度は、ボランティアが町会長の判子をもらってきたらTNRの助成金を出すというものであるため、単にTNRの助成だけであるなら町会長の判子など不要だと担当課の課長に伝えたところ、「万一、外飼いの飼い猫を手術してしまった場合、行政は責任を持てないので地域合意は不可欠だ」と返答した。

また、別の市の担当課の課長は、「行政はTNRの手助けをするだけだ。地域猫は地域で取り組むべきものだから行政は関係がない。苦情があっても、地域で合意したのであるから地域で対応してもらわなければ困る」と発言した。

行政職員がよく口にする「地域の合意」とは一体何なのか。住民の100パーセントが合意することなど、まずあり得ない、住民全員に逐一聞いて回ること自体がほとんど不可能である。それでは、住民の何割が地域猫活動に賛成すれば合意なのか。8割なのか、5割なのか、3割なのか?

町会長の判子があれば助成金を出すという制度では、町会長の合意書への署名捺印をもって地域の合意としている。しかし、あくまで町会長の個人的な判断によるものがほとんどで、猫ぎらいな町会長であればその町会長がいる限り、「地域合意」が得られないことになる。逆に、町会長が推進派であれば、地域に強力な反対者がいたとしても簡単に「地域合意」が得られることになる。そして、それらが後々、住民間の軋轢を生む事態に発展することがあるのだ。

町会の会合を開き、賛否を問うて実質的な「地域合意」を得ればよいという意見がある。ごもっともであり、それは理想だ。全ての地域猫活動は、そのように多くの地域住民を巻き込み、問題意識を共有することが大切だ。だが、そういう取組みは非常に時間がかかる。町会の会合で賛意を得られるまで、行政が地域猫活動として認めないとかTNRの助成金を出さないというのであれば、実質的な地域猫の取組みは一向に進まず、その間にどんどんと猫が繁殖してしまうだろう。

「地域猫とは地域の合意を前提としている」ということが強調されるあまり、「地域の合意がなかったら猫に餌を与えてはいけない」という誤った認識が広まっている。自治体によっては、行政自体が「地域の合意を得ないで猫に餌を与えないでください」などという看板を設置するなどしている。これは従来の「餌やり禁止看板」となんら変わることがない。

繰り返し書いていることであるが、野良猫に餌を与えるのに、地域の合意は要らない。ただし、地域の合意や理解を将来的に得られるような餌の与え方をしなくてはいけない。具体的には、避妊去勢手術をすること、置き餌をしないこと、餌場周辺の清掃を行うこと、という適正管理をすることだ。個人的に野良猫の適正管理をしている人が地道な努力を続け、その活動が地域に広まっていくのが地域猫である。

行政職員の地域猫と地域合意に関する認識は多くの場合、間違っている。町会長の「許し」を得た一部のボランティアが自分たちだけで必死になってTNRをして猫を世話をする。そういう状態が地域猫か?
違う。それは一部の個人的な適正管理の活動に理解が得られたというだけのことで、地域住民の取組みとは言えないだろう。ようやく、その入り口に立ったという段階だ。
個人で適正に野良猫を管理しようという奇特なボランティアの活動を尊重することなくして、地域猫の活動が広がることはない。地域猫とは極めて高度な地域活動である。ある日突然にぱっと何らかの住民合意がされ、ぱっと地域猫活動が始まるなどということはあり得ない。個人の適正な活動の積み重ねが基本である。そういう適正管理を個人だけでなく地域として取組もうというのが地域合意の中身であって、個人ボランティアの活動を認めてあげるというのが地域合意ではない。

行政はまず、個人の適正管理活動を肯定し、それを推奨するところから始めないといけない。いいかげんな餌やり行為者は確かに多いが、それを適正管理に向かうように指導しなければならない。
行政の本音はわかっている。苦情対応をしたくないのだ。しかし、猫に餌を与えること自体が悪いことだという風潮を放置しているから、いつまでたっても苦情が絶えない。公園の不毛な「餌やり禁止看板」と同じことになる。適正管理をスタンダードなものにしていくことが必要だ。

そのために、行政自体が、適正な猫の管理は禁止されるものではなく公益的な活動である、と宣言する必要があるだろう。そして、適正管理が地域としての取組みとなるように手助けしていくのが行政の仕事だ。地域合意ありきではいけない。地域合意はそんなに安直なものではない。

(いつの日か続く)


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